胎盤は子宮の上部に位置することが多く、へその緒を通して胎児に栄養と酸素を届ける役割を持っています。妊娠している間は子宮内にしっかり付着しており、出産を終えると子宮から剥がれて体外へ出てくる仕様です。
常位胎盤早期剥離とは、子宮内にまだ胎児がいる状態で胎盤が子宮から剥がれようとする状態です。胎児が子宮内にいる状態で胎盤が剥がれてしまうと、胎児への栄養と酸素の供給が不十分になってしまいます。
そのため常位胎盤早期剥離が起きた妊婦は緊急入院して、緊急で出産する必要が出てきます。
常位胎盤早期剥離では、胎盤の一部が剥がれる場合や全部剥がれてしまう場合もあります。妊娠20週以降に起こることが大半で、妊娠全体の中では0.5~1%の確率で起こり得ます。ただし、常位胎盤早期剥離が起こるはっきりとした原因は不明です。
出典:(6)常位胎盤早期剥離|公益社団法人 日本産婦人科医会
参照:https://www.jaog.or.jp/note/6%E5%B8%B8%E4%BD%8D%E8%83%8E%E7%9B%A4%E6%97%A9%E6%9C%9F%E5%89%9D%E9%9B%A2/
常位胎盤早期剥離では胎盤が子宮から剥がれる際に出血が起こり、出血量は剥離の程度によって異なります。そしてこれに伴い、妊婦には様々な症状が見られることがあります。
典型的な症状としては突然の腹痛が挙げられ、腹痛は持続性の場合があればけいれん性の場合もあります。他にも症状としておりものに血液が混じっていたり、腹部を優しく押すと痛みを感じたりするでしょう。
出血量がひどい場合は、ショックで低血圧になる人や、逆に無症状の人もいるなど様々な症状があります。
原因不明な常位胎盤早期剥離ですが、「どのような方がなりやすいか」ということは分かっています。そこで、常位胎盤早期剥離になりやすい人の5つの特徴を紹介していきます。
喫煙者がいる、もしくは妊婦自身が喫煙している場合も常位胎盤早期剥離になるリスクが高くなります。喫煙をする人はしない人に比べ約1.5倍のリスクと言われています。
また喫煙は、常位胎盤早期剥離だけでなく前期破水や切迫早産などのリスクも含んでいます。
常位胎盤早期剥離の既往歴がある方も、再び常位胎盤早期剥離になるリスクが高まります。とある病院の報告では常位胎盤早期剥離の既往歴がある妊婦の再発率は22%となっています。
また常位胎盤早期剥離を過去に2度経験したことのある妊婦だと、3度目のリスクは50倍とのことです。
出典:赤ちゃんが生まれる前に、胎盤が剥がれると大変なことになります。|医療法人社団 佐野産婦人科医院
参照:http://www.sanolc.com/blog/2018/02/post-150-571775.html
事故などで腹部を強く打った場合にも、常位胎盤早期剥離になるリスクがあります。また腹部への強い衝撃は、常位胎盤早期剥離だけでなく、流産や早産のリスクも含んでいます。
妊娠高血圧症候群の症状がある場合も、常位胎盤早期剥離になるリスクが高くなります。妊娠高血圧症候群とは、妊娠の際に高血圧になった状態を指します。
妊娠高血圧症候群において、上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上あるいは下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上となった場合、高血圧と言えます。妊娠高血圧症候群は妊婦の約20人に1人の確率で発症します。
中でも妊娠34週未満で発症した場合は重症になりやすく、血圧上昇の他に蛋白尿やけいれん発作、脳出血などの症状が見られることもあります。また妊娠高血圧症候群は、もともと高血圧や糖尿病、肥満、妊婦の年齢が40歳以上の方などがなりやすいと言われています。
出典:妊娠高血圧症候群|公益社団法人 日本産科婦人科学会
参照:https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6
切迫早産等と診断された場合にも、常位胎盤早期剥離のリスクが高いと言えます。出産は通常、妊娠37週0日〜妊娠41週6日までの間に起こります。この期間より前の、妊娠22週0日〜妊娠36週6日までの間の出産を早産と言い、早産になるリスクが高い状態を切迫早産と言います。
切迫早産では子宮収縮による規則的なお腹の張りや痛みが頻繁に起こり、子宮の出口まで開いて胎児が出てきてしまいそうな状態になります。
また切迫早産の他に子宮筋腫や胎児奇形、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)等が常位胎盤早期剥離になりやすい傾向にあります。
出典:早産・切迫早産|公益社団法人 日本産科婦人科学会
参照:https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=5
常位胎盤早期剥離は1度発症すると、短時間でどんどん進行していきます。子宮から胎盤が剥がれることで出血がおりものに混じっている場合は、自分で異常に気づいて早期に受診することが可能です。
しかし症状の出方は個人差があり、腹痛があっても出血はないといった場合もあります。そのような場合を放っておくと重症化し、母子ともに危険な状態に陥ってしまいます。判断しにくいことであるため、少しでも疑いがあれば早めに受診するようにしましょう。
常位胎盤早期剥離は母子に危険を及ぼすものです。しかし常位胎盤早期剥離は、自己管理によって予防できます。そこで、常位胎盤早期剥離の予防対策を3つ紹介していきます。
発症しやすい時期を把握しておくことが大切です。
妊娠中期〜後期にかけては羊水が急激に増加するため、お腹が張りやすくなります。ただ、人によってはこの張りと常位胎盤早期剥離だと思ってしまうこともあります。正常な張りかどうか判断がつかず不安を抱えないように、迷った場合は病院に相談するようにしましょう。
血流を良くするように心がけましょう。胎児へ送る栄養と酸素は、胎盤から血流を通して運ばれていきます。胎児に十分な栄養と酸素が届くように、妊婦は体を冷やさないようにすることが重要です。
普段から胎動を気にかけておきましょう。胎児が元気かどうかは10回の胎動を感じ取れる時間で分かります。10回の胎動が約20分間で感じ取ることができれば、胎児は健やかに育っていると言えます。
胎児は20〜40分程の間隔で睡眠と起床を繰り返しているため、60分ほどかけて回数を数えると良いと言えます。胎動が普段より少ない、または多い場合は病院に相談しましょう。
出典:各種指導|医療法人 共立さわらぎ産婦人科
参照:https://sawaragi-hosp.jp/treatment/obstetrics/page07.php
常位胎盤早期剥離は母子ともに危険な状態です。喫煙する人がいる場合や妊娠高血圧症候群である場合など、なりやすさはありますが、全く手が打てないわけでもありません。
日頃から胎動や自己管理に気をつけることで、もし常位胎盤早期剥離になったとしても早期の段階で気づけます。元気な赤ちゃんに出会うためにも、常位胎盤早期剥離を予防しましょう。