妊娠するとホルモンバランスが急激に乱れて、体調が変化したり精神的に不安定になりやすくなります。
ホルモンバランスは妊娠週数につれて変化していくため、その都度身体的にも精神的にも影響を受けますが、出産や赤ちゃんを育てるためにホルモンはとても重要な役割をしています。
人の体には多くの種類のホルモンが存在し、体の健康を維持するために様々な機能を調節する働きがあります。ホルモンは必要な時にだけ分泌され、それぞれの受容体がある細胞にのみ作用します。
体の恒常性を保とうと働いているわけですが、何かしらの原因でホルモンの分泌が過剰になったり、減少してしまうと体に異常が起きてしまいます。
妊婦さんの体に作用するホルモンはいくつかあり、妊娠してから出産までに分泌量が変化していき、妊娠時期によってそれぞれ必要な働きをします。
どのようなホルモンがどのような役割をし、またどのような症状として現れるかを妊娠時期別にみていきましょう。
妊娠初期に急激に増えるのがヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)という性腺刺激ホルモンで、卵胞の排卵を抑制させ、エストロゲンとプロゲステロンの生成を促す働きがあり、妊娠15週の頃にはプロゲステロンが胎盤で産生されるようになることから分泌量は減少していきます。
妊娠4週頃には少量ですが尿中に現れるため、これにより市販の妊娠検査薬でも妊娠判定ができるようになります。
またこのホルモンはつわりを引き起こす要因の1つとされ、その分泌量が減るにつれてつわりもおさまってくる妊婦さんが多いようです。
妊娠中期にはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量がどんどん増えていきます。
エストロゲンとプロゲステロンは骨盤や胸への血液の供給を増やしたり、子宮内膜の形成や子宮の筋肉層を緩ませる働きがあるのとともに、プロゲステロンは気分を不安定にさせたり、消化不良や便秘、ほてり、疲労感、肌トラブルなどを引き起こす作用もあります。
妊娠後期に急増するのがヒト胎盤性ラクトゲンというホルモンで、赤ちゃんに優先的にグルコースを送るために母体がグルコースを取り込むのを抑える抗インスリン作用と、母体の栄養補給のための脂質分解作用促進の働きがあります。
しかしこの抗インスリン作用はプロゲステロンやプロラクチンにもあり、どちらも妊娠後期が分泌量のピークとなることから妊娠糖尿病になるリスクが高くなります。
妊娠の継続や赤ちゃんの成長、出産の為にたくさんの働きをしているホルモンですが、分泌量の増減によりホルモンバランスが乱れて様々な症状が引き起こされます。妊婦さんはそれらの症状にうまく対処していかなければなりません。
ホルモンバランスの乱れによる症状として多く現れるものを詳しくみていきましょう。
妊娠して増加したホルモンによりつわりが起こり、食べると吐き気がしたり、においに敏感になったり、味覚の変化が起きることで食欲不振になることがあります。
またプロゲステロンの作用で胃腸運動が低下し、消化不良や胃酸の逆流を起こすので、安定期に入っても食欲不振の症状がなくならない妊婦さんもいます。
食欲がない時は無理に食べる必要はありません。食べられる時に食べられるものを少しずつ摂取するようにしましょう。何も食べられず水すら飲めない場合は注意が必要ですので必ず病院で相談しましょう。
プロゲステロンの作用により腸の運動が悪くなることで引き起こされる便秘や下痢と、ホルモンバランスの影響による自律神経の乱れや、精神的なストレスによる下痢が原因で腹痛が出ることがあります。
便秘に対しては水分補給と適度な運動や食物繊維の多い食事が効果的です。下痢においても脱水を避けるため十分な水分摂取が必要です。ひどい場合は医師に相談して自己判断で市販薬などを飲まないようにしましょう。
プロゲステロンには気分を不安定にさせる作用があり、急激な増加によって気分の浮き沈みが激しくなり、些細なことでイライラしたり不安になったり落ち込んだりしてしまいます。
体形や体調の変化によるストレスや、出産や子育てに対する不安が増えていく中、さらにホルモンが作用してしまうため、妊婦さんはマタニティブルーになりがちです。
気分転換しながら周りの人を頼ってできるだけゆっくり休みながら過ごしましょう。
本来、肌の潤いやハリを保つ働きをするエストロゲンですが、急激な増加により肌が敏感になったり乾燥しやすくなることがあり、またプロゲステロンの作用で皮脂の分泌が促されニキビができやすくなることで、妊婦さんは肌荒れが起こりやすくなります。
低刺激のもので丁寧に洗浄し、しっかり保湿することが大切です。またホルモンの影響で日光にも過敏になっており、シミもできやすいので紫外線対策もしっかり行いましょう。
腹痛の症状で紹介したように、プロゲステロンは腸の動きを悪くさせる作用がありますが、本来の目的は消化器の筋肉や靭帯を緩めて子宮が大きくなるのに備えるためです。
腸の動きが悪くなったことで排便されるまでに時間がかかり、水分が吸収され過ぎて便が硬くなってますます排便しにくくなり、便秘になります。
悪化すると痔になる可能性があるので早めに対処しましょう。
プロゲステロンは抜け毛を増やす男性ホルモンを抑え、毛髪の成長を促進する作用があるので髪の量が増える妊婦さんがいます。
しかし、髪の毛の「発毛→成長→脱毛」というヘアサイクルはホルモンの影響を受けやすく、ホルモンバランスの乱れによって周期が短くなり、抜け毛が増えることがあります。
産後もプロゲステロンが減少するため抜け毛が増えますが、ホルモンバランスの乱れが落ち着けば抜け毛も改善します。
ホルモンバランスの乱れによって妊婦さんには様々な症状が現れ、肉体的にも精神的にもストレスとなってしまいます。妊婦さんがストレスを感じることで赤ちゃんにも悪い影響をおよぼす可能性があるといわれています。
赤ちゃんにどのような影響があるのかみていきましょう。
人の体はストレスを感じるとストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを分泌しますが、妊婦さんの体で慢性的に分泌されると赤ちゃんの胎動や心拍を減らす可能性があります。
コルチゾールは妊娠中期以降であれば胎盤でブロックされるのですが、妊娠初期や胎盤に異常があった場合に赤ちゃんに届いてしまい、赤ちゃんの神経系の発達に影響を与え、赤ちゃんが情緒不安定やうつ病、ADHD(注意欠陥障害)になる恐れがあります。
ストレスホルモンと呼ばれるものにはコルチゾールの他にアドレナリンというのがあります。
アドレナリンは血管を収縮させる作用があり、それにより血流が悪くなって赤ちゃんに十分な栄養が届かなくなると赤ちゃんは栄養不足となり、発育不全による早産の確率を高めたり、時期が早ければ後期流産(妊娠12~22週の流産)となるリスクがあります。
よほど強い精神的なストレスでなければストレスホルモンは大量に分泌されないのでそんなに心配はいりませんが、慢性的に続くストレスは注意が必要です。
ホルモンは妊婦さんに様々な影響を与えますが、赤ちゃんが成長しやすいように子宮環境を整えたり、無事に出産し赤ちゃんを育てていくための準備をするという重要な役割をしています。
ホルモンにはストレスを軽減してくれるセロトニンとオキシトシンというものもあり、朝日を浴びながらのウォーキングや、家族とのスキンシップなどにより分泌されます。
オキシトシンは出産や授乳にもかかわるホルモンで、赤ちゃんを愛おしいと思うようになるのもこのホルモンの作用といわれています。
このようにストレスに対してもホルモンが働きかけ赤ちゃんを守り、妊婦さんと赤ちゃんの絆を深めています。
どんな妊婦さんでも体に不調があったり、不安になってしまうことでストレスになることがあります。大切なのはそのストレスとどう上手く付き合っていくかです。
規則正しい生活と栄養バランスのいい食事や軽い運動で体調を整え、たまには家族や友人と出掛けたり自分の好きなことをしてリフレッシュし、「心身の不調はホルモンバランスのせいでもあるし誰にでもあること」と寛容な気持ちでいることが大切です。
子育てが始まったら慌ただしくなってしまうので、妊婦さんである今のうちにゆっくり過ごしましょう。