正常な出産時期は、出産予定日の3週間前から2週間後である妊娠37週0日から41週6日とされています。この時期のことを正産期と呼びます。
しかし、陣痛の発来には個人差があり、正産期に陣痛がこないことも多々見られます。2019年の日本産科婦人科学会の調査によると、約60%の出産が37~39週の間にみられ、40週以降の出産は約27%です。
つまり、およそ4人に1人が出産予定日以降に陣痛がきて、出産していることになります。
最終月経の初日を妊娠0日、28日間を妊娠1ヶ月として(月経周期を28日として)、10ヶ月後の40週0日、つまり280日目が出産予定日として算出されます。これは、その日が統計上、一番出産の可能性が高いからです。
しかし、前述したとおり、正産期は37週から41週までであり、出産予定日を過ぎても41週までは正常な出産時期と考えられています。
出産予定日を超過しても陣痛がこない場合で、特に42週以降の出産を過期産と呼び、母体と赤ちゃんにはさまざまなリスクが伴います。
そのようなリスクを避けるためにも、過期産になる前に適切な医療処置をとることがすすめられています。
ここからは、出産予定日を過ぎても陣痛がこない場合に起こりえる、リスクを見ていきましょう。
妊娠週数が増えて出産予定日を超過すればするほど、胎児の成長が進み、胎児が大きくなりすぎます。すると、胎盤が老化し機能が低下したり、胎児が産道を通る際に鎖骨を骨折しやすくなるといわれています。
また、分娩時に首から肩にかけての神経を損傷してしまい、腕や手首、手に麻痺を残すリスクが高まります。
胎盤の機能は38週をピークに徐々に衰えていきます。そして、妊娠期間が40週を超えて胎盤の機能が落ちてくると、胎児の腸の動きが必要以上に活発になり、羊水中に胎便を排泄します。
この羊水中に排泄された胎便を胎児が吸引してしまうと、気道がつまったり肺に穴が開き、産後に赤ちゃんが呼吸障害を起こすことがあります。これを、胎便吸引症候群と呼びます。胎便吸引症候群を起こした赤ちゃんは、産後に処置が必要です。
出産予定日を超過して胎盤機能が低下すると、胎児への栄養や酸素の供給が減り、胎盤機能不全を引き起こします。すると、胎児は低栄養・低酸素状態になり、死産のリスクが高まります。
なお、一般的に死産とは妊娠22週以降に亡くなった状態での出産を指します。ただし、厚生労働省の定義は妊娠12週以降を死産とし、妊娠22週以降の死産と早期新生児死亡(出生後7日未満)をあわせた周産期死亡と区別されています。
出産予定日を過ぎても陣痛がこない場合、胎児だけでなく母体にも影響があります。予定日を過ぎて胎児が大きくなりすぎると、分娩が途中で止まってしまったり分娩に時間がかかる遷延分娩となり、母体と胎児に負担が大きくなります。
また、分娩が遷延することで、通常は出産後に子宮の収縮によって治まるはずの出血が止まらなくなる弛緩出血のリスクも高まるといわれています。過期産は母子ともに状態が急変する可能性が上がります。
出産予定日を過ぎても陣痛がこない場合、赤ちゃんの状態、ママのからだの状態を確認していきます。36週以降は1週間ごとの健診ですが、それ以上の頻度で状態を確認していくのが一般的です。
健診で胎児の心拍数や羊水量、子宮口の柔らかさや開口度、児頭下降度など、変化がないかチェックします。
その結果、早急に出産する必要がある場合は、人工的に陣痛を起こして分娩につなげていきます。
陣痛がこないときや陣痛が進まないときに、母体や胎児の状態、医療体制の状況をかんがみて、陣痛誘発剤が使われます。子宮口の開大が進んでいない場合には、必要時バルーン等で子宮口を広げる処置を行います。
陣痛促進剤には、プロスタグランジン(飲み薬・点滴)とオキシトシン(点滴のみ)があり、多くの場合でオキシトシンが使用されています。
陣痛促進剤の感受性には個人差があり、オキシトシンは10時間を過ぎると感受性が低くなるため、必ずしも1日で生まれるわけではありません。分娩の進行がみられない場合には、翌日以降に再度誘発剤を使用するというケースもあります。
プロスタグランジンは、不規則で緩やかな子宮収縮が徐々に増強していくと同時に、子宮口をやわらかくする働きもあります。オキシトシンは、自然陣痛に近い子宮収縮が規則的に起こり、間隔が徐々に短縮していきます。
陣痛誘発剤の使用時に注意すべきなのは、陣痛が強すぎて胎児を圧迫し、胎児機能不全や子宮破裂などの可能性がある過強陣痛になってしまわないかです。そのため、陣痛誘発剤の使用は慎重な投与と注意深いモニタリングが必要となります。
バルーンとはメトロイリンテルという風船のように膨らむ医療器具のことで、物理的に子宮口を広げて分娩を促進させる役割があります。
子宮口の開大が進んでいない場合は、そのまま陣痛誘発剤だけを使っても効果がないことが多くみられます。よって、必要時にバルーンを使用します。施設によっては、ラミナリアを使うこともありますが、どちらも効果は同様です。
予定日を超過すると、胎盤の機能が低下して胎児に十分な酸素が送れなくなります。陣痛がこないために胎盤機能が低下したときは、自然分娩の予定でも緊急帝王切開に切り替えられる場合があります。
また、人工的な処置を行っても子宮口が開かない場合や、母体・胎児に危険な兆候がある場合は、陣痛誘発剤の投与やバルーン処置をすみやかに中断して、吸引分娩や鉗子分娩、帝王切開が検討されます。
出産予定日になっても陣痛がこない場合や、そのほかの生まれる兆候がない場合、妊婦さんは焦ったり不安になってしまうでしょう。
しかし、前述したとおり、およそ4人に1人が予定日を過ぎてから出産しており、予定日超過は決して珍しいことではありません。
ここからは、そんな陣痛がこない時期の過ごし方を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
無理のない適度な運動は、陣痛の発来を促す有効な手段といわれています。妊娠中の運動不足は、子宮頸管の成熟を遅らせる原因の一つです。子宮頸管の成熟が遅れると陣痛の発来も遅れます。
また、適度な運動はストレス発散にもつながります。ウォーキングやマタニティヨガなど、無理のない適度な運動を心がけましょう。
出産が遅れる原因にストレスがあります。妊娠中は妊娠前と比べて体調の変化や制限が多く、ストレスがたまりがちになります。
陣痛がこないこと自体がストレスのもととなる場合もあるでしょう。しかし、ストレスは母体にも胎児にも悪影響をおよぼします。
ストレスを感じたらできるだけ発散して、リラックスした生活を送るよう心がけましょう。
食生活や睡眠時間など、規則正しい生活を送ることも大切です。しっかりと食事や睡眠を摂り、出産に備えて体力を維持することに努めましょう。
妊娠中の栄養の失調や偏りは、胎児の発育や母体の健康に影響するといわれています。母体が健康であっても、疲れがたまりやすくなったり、むくみの原因になったりします。
母体のためにも、胎児のためにも、バランスを考えた栄養の摂取を心がけましょう。
陣痛の発来時期は個人差があります。出産予定日当日に陣痛がくる人もいれば、正期産である37週より前にきたり予定日を過ぎてもなかなか陣痛がこないケースもあります。
出産予定日になっても陣痛がこないと焦ることはありません。リラックスして過ごしながら、自然な陣痛がくるのを待ちましょう。
ただし、42週を過ぎると母子共にリスクをともないます。予定日を超過したら、医師の判断に従って冷静に対処しましょう。