鉄分とは、人の体に必要なミネラルの一種で血液内の赤血球に多く含まれ、酸素を運ぶのに欠かせない栄養素です。
私たちは普段の食生活の中で鉄分を自然に摂取していますが、この鉄が不足してくると貧血や倦怠感などの症状が出てしまうため注意が必要です。
特に女性は鉄分不足からくる貧血などの悩みを抱えている方も多いと思います。
女性の中でも特に妊婦さんはお腹の赤ちゃんが成長するためにも様々な栄養素が必要になるため、鉄分も不足しやすいと言われています。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020」によると、鉄の1日の摂取推奨量は成人男性では約1.0mg、女性では約0.8mgの鉄が1日に損失しており、それを補うために成人男性は約7.5mg、月経のある成人女性では約10.5mgが推奨されています。
妊婦さんともなると妊娠初期で約13mg、中期から後期にはなんと約20mgもの鉄分を摂取する必要があります。
ところが、厚生労働省2018年「国民健康・栄養調査」によると、実際の摂取量は20代女性平均で6.5mg、30代女性平均で6.8mg、妊婦さんは6.1mgと推奨量に対して大幅に摂取量が不足している事が分かります。
なぜ、妊婦さんには鉄分が必要になるのでしょうか。
妊娠中は普段生活する上で必要な鉄分に加えて、赤ちゃんの成長に必要な鉄分や循環血液量の増加に伴う鉄需要の増加などにより鉄分が大量に必要になると考えられています。
このように妊娠期においては母体の健康や胎児の発育のためにも鉄分がより大切になるのです。
妊婦さんは常に多くの鉄分を必要としますが、特に妊娠中期以降になると赤ちゃんの成長に伴い、胎盤の増大や体内の血液量が増え、妊娠初期に比べてさらなる鉄分を必要とします。
このため、妊娠初期からお腹がどんどん大きくなるにつれて、鉄分を含む栄養素の必要摂取量も次第に増えていくことになります。
それでは、妊婦さんの不足しがちな鉄分を摂取するにはどうすれば良いでしょうか?
妊娠中は体調が優れない時もあり、できるだけ体調にあわせて無理なく鉄分を取り入れたいところです。
ここでは、妊婦さんに必要な鉄分の摂取方法2つをご紹介します。
また、それぞれの注意点も併せてお伝えしますのでご参考にして下さい。
妊娠中はつわりや味覚が変わることも多く、食事が三食しっかり取れなかったり、食事量が減ったりする場合があります。
このため、不足しがちな栄養素をサプリメントで補うという方法があります。
市販のサプリメントは妊婦さんでも摂取しやすいなどメリットがある一方、摂りすぎや体調によって健康被害を招く可能性があるなどのデメリットもあるため、服用する際は予めお医者さんへ確認をしましょう。
メリット | デメリット |
---|---|
調理の必要もなく手軽に摂取できる。 | 用量を守らないと過剰摂取になってしまい健康被害を招く恐れがある。 |
不足している栄養素を効率よく摂取できる。 | 体質に合わず体調が悪くなったりする場合がある。 |
匂いや味がないので、苦手な食品よりも摂取しやすい。 | 薬と一緒に服用することで薬の副作用が増強される場合がある。 |
普段の食事からしっかり摂取する事も大切です。
妊婦さんは鉄分以外にも今まで以上にたくさん栄養が必要になりますので、お腹の赤ちゃんの成長を促すためにも規則正しい生活とバランスの取れた食事を心がけましょう。
食事は様々な栄養を取り入れる事ができる一方、いろんな食品をバランス良く食べる必要があります。
妊娠中は体質が変化しあまり食べる事ができない場合もあるため、その際はサプリメントなどを上手に取り入れる事も必要です。
食品に含まれる鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄は肉や魚に多く含まれ体内への吸収率が高く、反対に非ヘム鉄は野菜や穀類に多く含まれ体内への吸収率がヘム鉄に比べ低くいというのが特徴です。
それでは、この鉄分はどのような食品に含まれているのでしょうか。
ここからは「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けて鉄分が多く含まれる食品をご紹介していきます。
ヘム鉄は主に動物性の食品に多く含まれ、植物性食品に含まれる非ヘム鉄に比べ吸収率が高く、多くの鉄分を吸収する事が知られています。
代表的なヘム鉄を含む食品とおすすめの食べ方もご紹介します。
レバー類にはヘム鉄が多く含まれますが、肉の種類によってヘム鉄の量が異なります。
生肉50gあたりでは、豚肉が約6.5mg、鶏は約4.5mg、牛は約2.0mgと豚肉レバーにより多くのヘム鉄が含まれています。レバーの料理は定番の野菜たっぷりのレバニラ炒めの他、焼鳥・焼きとんなどが代表的なメニューです。
臭いが気になる方は牛乳などにつけて下処理をしっかりすれば食べやすくなります。
また、鶏レバーは低カロリーでも鉄分が摂れるのでカロリーが気になる方にもおすすめです。
レバー以外でも赤身肉にはヘム鉄が多く含まれています。
牛の赤身には豚肉や鶏肉に比べてヘム鉄が多く含まれており、特に牛ヒレ肉にはたくさんのヘム鉄が含まれています。
焼肉やステーキのようにそのまま焼いて食べても美味しいですし、野菜と一緒にワイン煮などの煮込み料理にも相性は抜群です。
あさりは他の魚に比べて鉄分も多く、栄養価の高い食品です。また、レバー類や牛ヒレ肉同様、タンパク質も豊富で疲労回復にもつながります。
中でもアサリの水煮は下ごしらえの必要もなくそのまま料理にも使えるので、あさりのクラムチャウダーやあさりのスパゲッティなど、妊婦さんにも嬉しいお手軽料理としてご活用頂けます。
かつおは魚の中でも鉄分を多く含む代表的な赤身魚です。煮魚や竜田揚げなど、幅広く料理に使う事ができます。また、高タンパク低脂肪でビタミンも豊富なため特に女性におすすめです。
ただし、生かつおなどのお刺身はアニサキスなどの寄生虫による食中毒のリスクもあるため、できるだけ火を通すか冷凍をした上で調理をする方がが安全です。
牡蠣は毎年11月頃から3月頃にかけて旬を迎える二枚貝の一種です。
別名「海のミルク」と呼ばれるほど栄養価が高く、鉄分の他にカルシウムやビタミンAなどミネラルが豊富に含まれています。
そのまま生で食べても美味しいのですが、生が気になる方は牡蠣の炊き込みご飯や蒸し牡蠣などで旬の食材味わってみてはいかがでしょうか。
非ヘム鉄は主に野菜や穀類に含まれる鉄分です。
吸収率はヘム鉄に比べて劣りますが、日本人が食事から摂取する鉄のほとんどが非ヘム鉄であると言われています。
このように日常的に食べる機会が多い野菜にはビタミンや食物繊維などの栄養も豊富で、多くの料理に使われます。
小松菜は一年中通して手頃な価格で購入でき、栄養価抜群のため様々な料理に使われる事が多い食材です。
また、下茹でも不要でお味噌汁や漬物、お浸しなど多彩な料理に使える便利な食材でもあります。普段あまり食べない方はこれから積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
ほうれん草は小松菜に並び栄養価の高い定番野菜です。
生のままだとえぐみが残るため下ゆでが必要ですが、お浸しや炒め物、パスタやサラダなどにも幅広く利用できます。
ほぼ一年中手に入りますが寒さで栄養を溜め込む冬が最も栄養価が高いと言われています。
時期にあわせて小松菜とどちらを使うか選んでみても良いでしょう。
干しひじきは鉄分の他カルシウムや食物繊維も豊富に含まれており、また、保存にも優れ、水で戻せばすぐに調理できるお手軽で万能な食材です。
ハンバーグなどのおかずとしてだけではなく煮物にして常備菜として作り置きしておくのもおすすめです。
豆乳は大豆に含まれる大豆タンパク質の他、肥満予防に良いとされるサポニンやカルシウムなどたくさんの栄養成分が含まれています。
そのまま飲むこともできますが、スープや鍋など料理のベースとして使う事で、バリエーションが増え様々な料理に取り入れる事ができます。また、豆乳はコンビニでも取り扱っているので手軽に購入できるのもポイントです。
生揚げは大豆由来の良質なタンパク質が含まれています。
豆腐に比べ脂質は高めですが、鉄分は2倍以上と栄養素が豊富に含まれています。また、ボリュームもあるため食べ過ぎも抑える事ができます。
ここでは鉄分の吸収を手助けしてくれる栄養素をご紹介します。
この栄養素を含む食材を積極的に取り入れる事により、効率よく鉄分を摂取でき、料理の献立もバリエーション豊かになります。妊婦さんも積極的に取り入れてみましょう。
ビタミンCは体調を整える効果がありながらも鉄分の吸収を助けてくれる優れた栄養素です。ビタミンは体内で合成する事ができないため、毎日バランスよく摂取したいところです。
主に野菜などに多く含まれ、特にパプリカやブロッコリーにはビタミンCが豊富に含まれているのでサラダや炒め物に加えることで吸収率がU Pします。また、うなぎにはビタミンC以外にも鉄分や亜鉛などの身体に大切な栄養素が豊富です。
イチゴやみかんなどの果物にも多く含まれるため、食後のデザートや間食として摂取するのも良いでしょう。
タンパク質は肉や魚類以外に乳製品や卵などにも多く含まれています。
牛乳・チーズなどの乳製品や、納豆・卵など普段からスーパーでよく見かける食品が多く、特に卵は完全栄養食と呼ばれるほど様々な栄養素が含まれているのでおすすめです。
目玉焼きや卵焼きなど、毎日食べても飽きが来ない定番メニューの多さも好まれる理由です。
妊婦さんはお腹の赤ちゃんのために鉄分以外の様々な栄養素が必要になります。
ここではその中から2つの栄養素をご紹介します。
赤ちゃんの体を形成するために必要な栄養素ですので忘れずに摂取するようにしましょう。
葉酸は水溶性ビタミンの一種で、妊娠初期に不足すると神経管閉鎖障害の発症リスクが高まると言われています。
この葉酸は野菜類やキノコ類、海苔などの海藻類に多く含まれますが、水溶性ビタミンです。そのため調理損失も受けやすくなっています。
そこで厚生労働省は平成12年の「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する情報提供要領」において、食事からだけではなくサプリメントなどの栄養補助食品等から葉酸を摂取することも推奨しています。
カルシウムは皆さんもご存知のとおり体の骨格を形成するために必要な栄養素です。
牛乳や飲むヨーグルトなどの飲料の他、カルシウムを多く含むウエハースなどのお菓子も販売されているので手軽に補給する事ができます。
妊娠中はカルシウムの吸収率が上昇することからカルシウムの摂取量を増やす必要はないとされていますが、もともと現代の日本人のカルシウム摂取量自体が少ないため、妊娠機・授乳期に関わらず、日頃から意識的にカルシウムの摂取に努めましょう。
いかがでしたでしょうか?
今回は妊婦さんにとっての鉄分の大切さや代表的な食品、そしてその摂取の方法などについてご紹介しました。
鉄分は私たちが生きていく上で必要不可欠な栄養素の一つ。不足するとすぐに体調にも影響が出てしまうこともあるほど、身近に感じる栄養素であるといえます。
妊婦さんは生まれてくる赤ちゃんのためにもバランスの良い食事を心がけ、鉄分不足を解消しましょう。