「葉酸(ようさん)」とは水溶性ビタミンB群の1種で、妊娠中に赤ちゃんの成長を促す効果や、赤血球を作り出す働きをもつ栄養素のことです。
葉酸を多く含む食品は、海の藻類であるのりやわかめや昆布、肉類や卵に加えてえだまめやモロヘイヤ、パセリとナチュラルチーズや納豆などがあります。こうしてみると、葉酸は日常的に口にしている食品によく含まれていると言えるでしょう。
葉酸は、妊娠中にとった方がよい栄養素と言われています。妊娠中に葉酸が必要な理由は、葉酸が赤ちゃんの成長に重要なビタミンであり、神経管の先天異常の発症リスクを下げ、赤ちゃんの細胞分裂を促す効果をもつためです。
赤ちゃんは、さかんに細胞分裂を繰り返しています。DNAの合成がうまくできなければ、細胞分裂が失敗するリスクがあります。葉酸がDNAをきちんと合成させ、健全な細胞分裂をサポートするでしょう。
葉酸の1日の摂取量目安は、18歳以上の男女で共に240㎍となっています。葉酸はよく見かける食品に多く含まれているため、意識していれば摂取は難しくないでしょう。
ただし、妊娠中の女性はさらに240㎍追加で倍の摂取を推奨されています。妊娠中の女性の1日の葉酸摂取量、480㎍を食品だけで達成するのは困難です。
また食物中の葉酸の吸収率に比べて、サプリメントからの吸収率のほうが高いため、最も摂取が必要な妊娠3か月まではサプリメントの利用をお勧めします。
葉酸の役割は、細胞の生産や再生をサポートしてくれ、健全な体の発育を促してくれることです。
人の体は、細胞分裂を繰り返しています。葉酸はその細胞分裂が正常に行われるようにサポートしたり、赤血球を作り出しています。そのため、葉酸は別名「造血ビタミン」とも呼ばれています。女性は貧血になりやすいと言われています。葉酸や鉄をとれば、貧血の予防になるでしょう。
しかし、妊娠後期に積極的に葉酸を摂取することで、生まれてきた子どもが小児喘息になったり湿疹ができたりする危険性が高まると考えられています。サプリメントで葉酸をとるのは妊娠3か月までにしてその後は食品からの摂取が望ましいでしょう。
ここからは、改めて妊娠中の妊婦さんや赤ちゃんにとって葉酸が必要な理由について紹介します。
葉酸は赤ちゃんにとって必要な栄養素なだけでなく、妊婦さんにとっても摂取した方がよい栄養素です。また妊娠してからではなく、妊活中から摂取することもおすすめです。葉酸の必要性について見ていきましょう。
葉酸はDNA合成に影響を与える栄養素であり、受胎前後に葉酸を摂取することで胎児の「神経管閉鎖障害」リスクが減少するという研究結果が出ています。厚生労働省も、葉酸摂取を推奨しています。
妊娠の初期には、赤ちゃんの神経管が形成されます。この時、葉酸がしっかりあるかどうかが赤ちゃんの先天異常である神経管閉鎖障害が起こるリスクに関係してくるとされています。リスクを下げるために、葉酸が必要なのです。
葉酸はDNAの合成をサポートすることから、細胞分裂の盛んな赤ちゃんの健全な成長をサポートすると共に、赤血球の生成をサポートする役割も持っています。神経管閉鎖障害のリスクを減らすだけでなく、赤ちゃんの成長にとって葉酸は必要な栄養素なのです。
葉酸が不足してしまった場合、赤ちゃんの脳や神経の先天異常、障害のリスクが高まることがわかっています。また、葉酸の摂取不足は早産につながることも報告されています。
葉酸は赤ちゃんだけでなく、妊婦さんの貧血予防に対しても効果的な働きをします。これは、葉酸の赤血球の生成をサポートする役割によるものです。
妊娠中は赤ちゃんと2人分の血液を作り出すため、血液中の葉酸や鉄といった栄養素が不足し貧血になりやすくなっています。そのため、妊娠中は通常の葉酸摂取量の倍の摂取を推奨されています。日々の食事から葉酸を積極的に摂取するように意識しましょう。
妊娠中に葉酸を摂取することで、妊婦さんに「動脈硬化」や「高血圧」が起こるリスクを下げられるでしょう。
homocysteineという血中アミノ酸の1種は、血栓を発生させる危険因子であるとされており、コラーゲンの質をも低下させます。葉酸を摂取することでhomocysteineのメチオニンやL-システインへの代謝を促し、結果的に動脈硬化や高血圧になるリスクを下げられるでしょう。
幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」は、葉酸を摂取することで分泌を促せるということから、妊婦さんの精神的な安定のためにも葉酸は必要な栄養素と言えるでしょう。
妊娠中は体に大きな変化が起こることにより、精神的に不安定になる妊婦さんが少なくありません。精神を安定させるためにセロトニンの分泌を促すよう、葉酸や鉄・ビタミンB6・ナイアシンなどの栄養素を摂取してみましょう。
葉酸をしっかり摂取することで、妊婦さんがなりやすい「葉酸欠乏症」のリスクを下げられるでしょう。
葉酸欠乏症には疲労感や貧血などの症状があり、妊娠中であった場合は胎児の先天性疾患に影響することもあります。妊娠中、とくに初期は赤ちゃんの神経管形成や細胞分裂のために大量の葉酸が消費されるため、そのままでは葉酸欠乏症になる可能性があります。
葉酸の消費に備えて、通常よりも葉酸を摂取しておく必要があるのです。
妊婦さんや赤ちゃんの健康のために葉酸の摂取が推奨されていますが、妊娠中は他にも一緒に摂った方がよい栄養素がありますので、見ていきましょう。
これらの栄養素を一緒に摂取することで、葉酸の働きがスムーズになることでしょう。妊娠中の葉酸摂取はサプリメントに頼る人が多いでしょうが、その場合は他にどんな栄養素が含まれているのかチェックしてみましょう。
ビタミンCを葉酸と一緒に摂取することで、たんぱく質である「コラーゲン」の構築をサポートします。
コラーゲンというたんぱく質は体や臓器を形作ったり、臓器と臓器の結合などの働きをしています。葉酸の効果を体内でしっかり維持するためにコラーゲンが必要であり、そのためにビタミンCを摂取する必要があるのです。
ビタミンCはアセロラ・キウイ・いちごなどの果物や、パセリ・パプリカといった野菜に多く含まれています。
ビタミンB6は筋肉や血液などを作りだすこと、免疫機能の維持といった働きをもった栄養素であり、葉酸を摂取してアミノ酸を代謝させるために必要な栄養素です。
葉酸はしっかり摂取していてもビタミンB6が足りていないことがあり、日本人に不足しがちな栄養素と言われています。ビタミンB6が多い食品としては、バナナやさんま・かつお・まぐろ・牛レバーがあります。葉酸と共に、しっかり摂るようにしましょう。
ビタミンB2は皮膚や粘膜を健康に保つために必要であり、糖質・脂質・たんぱく質の代謝を支えている栄養素です。糖質・脂質の代謝を促すことと、過酸化脂質の発生を防いで生活習慣病予防に効果的な栄養素の1つでしょう。
ビタミンB2は、レバーや卵・うなぎ・乳製品・納豆などの食品に多く含まれています。
ビタミンB12は赤血球中のヘモグロビン生成を助ける栄養素であり、葉酸と共に造血や細胞分裂に関わっています。妊娠中にビタミン12が不足すると早産になったり、低体重児出産のリスクを高めたりすると言われています。
ビタミン12はレバーやさんま・にしん・あさり・牡蠣などに多く含まれています。葉酸と共に、不足させないようしっかり摂取しておきましょう。
亜鉛は300種の酵素の組成に必要なミネラルであり、妊娠中に摂取することで赤ちゃんの健全な細胞分裂を促して低身長や低体重のリスクを下げる働きをもっています。妊娠初期から後期にかけてだけでなく、授乳中にさらに多くの摂取が推奨されています。
亜鉛は牡蠣やあわび、タラバガニ・するめ・牛乳・卵・チーズ・納豆・アーモンドといった比較的身近な食品に多く含まれています。
ビタミンDはカルシウムやリンの吸収を促進し、血液中のカルウシム量を維持して丈夫な歯や骨の形成をサポートする働きをもっている栄養素です。妊娠中には、赤ちゃんに丈夫な骨を作らせるために通常の倍のカルシウムが必要、と言われています。
また、妊婦のビタミンDは生まれてくる子どもが20歳になったときの骨量と関係しているともいわれています。そのためカルシウムを摂取するだけでなく、ビタミンDも摂った方が効果的でしょう。ビタミンDは魚介類や卵、キノコなどに多く含まれています。
ビタミンDは食事以外に、紫外線により皮膚で合成されます。夏なら15分程度、冬はもう少し長く日に当たることも効果的です。その場合、肘下やひざ下を日に当てれば十分です。
妊娠中、できれば妊活中から葉酸をとっておくことは、妊婦さんや赤ちゃんの健康のために良いことです。葉酸は赤ちゃんの健やかな成長に欠かせない栄養素の1つであるため、妊婦さんは通常よりも多く摂る必要があるからです。
葉酸はほうれん草やパセリなど身近な食品によく含まれていますが、妊娠中はそれだけでは足りないため、妊娠初期はサプリも上手に利用しましょう。