赤ちゃんの成長曲線とは、定期的に測定した赤ちゃんの身長や体重の数値をグラフ化したものです。
国立保健医療科学院が公開している「乳幼児身体発育評価マニュアル」によると、2010年に実施された大規模な乳幼児の身体発育調査によって、標準となる「乳幼児身体発育曲線」が作成されました。
その乳幼児身体発育曲線と、作成した赤ちゃんの成長曲線を比較したり、その形を観察したりすることで、その子の身体発育や栄養状態の評価に役立てられています。
出典:乳幼児身体発育評価マニュアル|国立保健医療科学院
参照:https://www.niph.go.jp/soshiki/07shougai/hatsuiku/index.files/katsuyou_2021_3R.pdf
先に紹介した「乳幼児身体発育曲線」は、3~97パーセンタイルの成長曲線が描かれています。たとえば、3パーセンタイル曲線は、最小の数値から数えて全体の3%に位置している乳幼児の成長曲線です。
赤ちゃんの成長曲線を作ることで、その子の身長や体重が前から数えて全体のおよそ何%に入るのかが推定できます。そのため、このパーセンタイル曲線は主に学校などで使用されています。
なお、その他の評価手法として、ばらつきの大きさを表す標準偏差(SD)を用いて+2SD~-2SDの曲線から正常か否かを判断する方法があり、主に医療機関で用いられています。評価方法はどちらを用いても問題はありません。
赤ちゃんの成長曲線は、グラフ用紙に描く、またはパソコンやスマートフォンのソフトやアプリに入力して作成します。難解な計算などはないため、作成の仕方はそれほど難しいものではないでしょう。
成長曲線の横軸が年齢(月齢)、縦軸が身長あるいは体重で、測定した時点の年齢(月齢)と測定した身長あるいは体重が交わるところに点をつけます。
定期的に測定してその点をつなげ、グラフの変化を見ていきます。
成長曲線を作成して確認することで、赤ちゃんの発育状況や栄養状態を客観的に評価できます。
自分の子どもが順調に大きくなっているのか、同じ年齢(月齢)の赤ちゃんに比べて大きいのか小さいのか、栄養は足りているのかなどが可視化されるため、子どもの状態が把握しやすいでしょう。
また、身長や体重を正確に測定するという比較的簡単な方法で、隠れている病気を発見するきっかけにもなることがあります。
生後3ヶ月頃までが、人生でもっとも急激に身体が成長する時期です。約50cmほどだった身長は生後3ヶ月間でおよそ10cm増加し、体重は約2倍になると言われています。
それ以降は成長の速度が落ち着き、緩やかに上昇していくでしょう。そして、一般的に1歳の誕生日ごろには、生まれたときの約3倍の体重になっています。
ここまで見てきたように、成長曲線は身長や体重の数値だけでなく、成長速度も一目で確認でき、さらにそれぞれが適正であるかチェックできるものです。
赤ちゃんの年齢(月齢)に応じた身長や体重は、その子の成長の目安になるでしょう。
ただし、子どもの身長や体重には個人差があり、成長スピードにもまた個人差があることを知っておくのは大切です。
赤ちゃんの成長曲線を作成するには、グラフなどに直接描く以外に、パソコンやスマートフォンにソフトやアプリをダウンロードして数値を入力し、自動で作成させる方法もあります。特に、最近ではiphoneなどのスマートフォンを活用している人も多いでしょう。
正しい成長曲線を作成するためには、正確に赤ちゃんの身長や体重を計測する必要があります。ここでは、成長曲線のために赤ちゃんの身長や体重を計測する方法を紹介します。
公共の場には授乳室が設けられ、乳児用の体重計や身長計が設置されている場合があります。特に、病院や子育てセンター、大型ショッピングセンターなどの授乳室には、体重計や身長計が用意されていることが多いでしょう。
授乳室がある施設を訪れた際、そこに設置された体重計や身長計を利用して、体重や身長を測定すると良いでしょう。
乳幼児用のベビースケールは、さまざまなタイプのものが販売されています。特に、新生児を母乳で育てている場合は、飲んだ母乳の量を測るためにベビースケールを購入したり、レンタルしたりする人もいるでしょう。
ベビースケールは10g単位以内のものを準備しましょう。成長曲線を得るために自宅で毎日測定する場合は、できるだけ同じ時間帯に測るようにしてください。
市町村では乳幼児健康診査(乳幼児検診)を実施しています。3~4ヶ月健診はほとんどの市町村で実施され、1歳6ヶ月健診と3歳児健診は母子保健法で義務づけられています。
乳幼児検診を利用して、身長と体重の測定結果を得ることができます。さらに、発育状況だけでなく、赤ちゃんの栄養状態や運動機能障害の有無、精神発達の状況などを医師がチェックしてくれるでしょう。
出典:母子保健法施行規則 第二条|e-Gov 法令検索
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340M50000100055
新生児・乳児がいる家庭を助産師・保健師が訪問し、赤ちゃんの体重測定や健康状態・発育状態の確認、産後の母親の体調や育児に関する相談・指導などを行います。
この「赤ちゃん訪問事業」は市町村が無料で行うものですが、その対象は生後4ヶ月までの赤ちゃんがいる全世帯です。
このサービスを利用した際、体重測定をしてもらい、成長曲線の数値を得ることができます。また、赤ちゃんの栄養状態や発育などに関する悩みがあったら、相談もできるでしょう。
出典:新生児訪問|鹿児島市
参照:https://www.city.kagoshima.lg.jp/kosodate/boshihoken/kosodate/ninshin/kodomo/homon.html
前述の通り、赤ちゃんの成長曲線を作成するうえで、個人差や成長スピードの差があることを理解しておく必要があります。さらに、月齢別の体重や1日の体重増加量などの目安を知っておくと良いでしょう。
ここからは、それぞれの目安となるようなデータを見ていきましょう。
厚生労働省の調査による「平成 22 年乳幼児身体発育調査報告書(概要)」には、平成12年および平成22年の月齢別の平均体重(男子・女子)が示されています。
たとえば、平成22年の男の子については、生後1ヶ月~2ヶ月未満は4.78kg、3ヶ月~4ヶ月未満は6.63kg、5ヶ月~6ヶ月未満は7.67kg、7ヶ月~8ヶ月未満は8.30kg、生後9ヶ月~10ヶ月未満は8.73kg、生後11ヶ月~12ヶ月未満は9.09kgとなっています。
一方、女の子の場合はそれぞれ、4.46kg、6.16kg、7.17kg、7.79kg、8.20kg、8.54kgです。
出典:平成 22 年乳幼児身体発育調査報告書(概要)|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tmct-att/2r9852000001tmea.pdf
生後0日目~5ヶ月の乳児の栄養は、母乳もしくはミルクに依存しており、それらの量や質が大きく成長に影響します。
生後6ヶ月以降は、母乳やミルクの摂取量が減っていき、離乳食から栄養素を取り入れる割合が増えていくでしょう。
生後6ヶ月までの1日あたりの哺乳量は0.78 Lであり、そこから尿、便、汗などで排泄され、1日の体重増加量は、生後3ヶ月まではおよそ25〜30g、3ヶ月から6ヶ月まではおよそ15〜20gと言われています。
出典:審議会資料|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042642.pdf
自治体から妊婦に交付される母子健康手帳(母子手帳)には「乳児成長曲線」が記載されており、妊娠中に確認することもできます。
出産後は、実際に母子手帳のグラフに記載したり、スマートフォンのアプリに入力したりして、赤ちゃんの成長曲線を作成していきます。
ここでは、数値を入力するうえで注意すべき点を見ていきましょう。
生後間もない赤ちゃんは、母乳やミルクを摂っているにもかかわらず、一時的に体重が減少します。この現象は「生理的体重減少」と呼ばれ、ほとんどの赤ちゃんに見られる自然な経過です。
これは、母乳やミルクを飲む量よりも排泄量のほうが多いことが原因です。保護者は赤ちゃんの体重が減ると不安になりがちですが、再び体重が増え始め、生後2週間ほどで出生体重を超えていれば心配ないでしょう。
成長曲線のために数値を入力した際、その数値がパーセンタイル曲線の下限を下回ると心配になってしまう保護者は多いでしょう。
成長曲線の正常範囲は、あくまでも目安です。また、子どもの成長は体質や遺伝的な要素が大きく影響し、個人差があります。
多少成長曲線の正常範囲から外れていても、成長速度が適正であれば、基本的に心配したり焦ったりする必要はありません。周囲の子どもと比べることなく、長い目で見守りましょう。
また、頭囲や胸囲なども含めて総合的に判断することも大切です。
「成長曲線が正常範囲から多少はみ出すことは心配ない」と言っても、数か月以上にわたって正常範囲を逸脱している場合は注意が必要です。
徐々に曲線のカーブから離れていく場合、曲線が水平に近い横ばいのような線になる場合、さらには身長と体重のバランスが急速に変化した場合などが数か月続いたら、何らかの病気の可能性もあるため、医師に相談しましょう。
成長曲線は、子供の成長が適正かどうかを判断するうえで役に立つツールです。身長や体重などを測定し、グラフ用紙に記入したりパソコンやスマートフォンに入力したりするだけで、簡単に作成できます。
成長曲線には個人差があるため、ある時点の身長・体重がパーセンタイル曲線や-2SD~+2SDを下回る、上回る、外れるなどが見られても、それだけで心配する必要はないでしょう。
ただし、大きく外れていく場合や横ばいに近い状態が続いた場合などは、成長異常を起こす病気発見のきっかけとなることもあります。
成長曲線について理解を深め、赤ちゃんの成長状況を把握するのに役立てましょう。