葉酸とは水溶性のビタミンB群の一種で、ビタミンB12とともに新しい赤血球の生産を助けるビタミンで「造血のビタミン」とも呼ばれます。
また、葉酸は代謝に関わりが深く、DNAやRNAなどの核酸やたんぱく質の合成を促進します。細胞の生産や再生を助けるので、体の発育にも重要な栄養素です。細胞の分裂や成熟にも大きく関わるため、胎児にとって重要な栄養素であり、妊娠期や授乳期の積極的な摂取が推奨されています。
葉酸は、ホウレンソウの葉から発見された栄養素です。ラテン語で「葉」を意味する「folium」から「Folate=葉酸」と名付けられました。
その名前から植物性の食品に含まれていると思われがちですが、レバーなどの動物性食品にも多く含まれています。
厚生労働省では神経管閉鎖障害のリスクを下げるために、妊娠1ヶ月以上前からの葉酸の摂取が必要としています。妊娠初期の妊娠7週頃までには、胎児の脳や脊髄のもととなる神経管が形成されます。この頃、まだ妊娠していることに気づいていない人も少なくありません。
胎児の神経管発達のため、妊娠初期に体の中で葉酸を不足させないことが必要です。そのため、妊活中から葉酸を摂取することが推奨されています。
葉酸には「天然葉酸」と「合成葉酸」の2種類があり、体内への吸収効率に違いがあります。
天然葉酸とは食材に含まれる葉酸で、消化管の酵素により分解されてから小腸で吸収されます。その過程で受ける影響のため、体内への吸収効率は、摂取した量の半分程度とされています。
一方、合成葉酸とはサプリメントなどに含まれる葉酸で、そのまま小腸で吸収されるため体内への吸収効率は高く、摂取した量の約85%が利用できるとされています。
妊娠初期は、胎児の脳・神経管・心臓などが形成される重要な期間です。妊娠初期にはたくさんの葉酸が必要となり、葉酸が体の中で不足していると胎児が先天異常になる可能性が高まるといわれています。
また、葉酸不足が続くと、妊婦さんも貧血症状や精神的不安定などの葉酸欠乏症になる可能性があります。妊娠初期はつわりでまともに食事ができなくなるなど、葉酸が不足しがちになるため、妊娠初期はサプリメントを活用するなど工夫をして葉酸を摂取することが必要です。
それでは、葉酸が不足するとどうなるのか、まずは胎児への影響を説明します。
はじめに、葉酸は赤血球をつくり、細胞の生産や成熟を助ける栄養素と説明しました。胎児の細胞分裂が盛んな妊娠初期の葉酸不足は、胎児の先天異常や発育の遅れなどが生じる可能性があるといわれています。具体的にそのリスクを見てみましょう。
葉酸は細胞の生産を助ける働きから、不足すると細胞分裂の盛んな箇所で欠乏症状が現れやすく、免疫機能減衰や消化管機能異常のリスクが高まります。
消化機能異常では、消化管の発達が不完全だったり、位置の異常で通過障害が起こることがあります。症状はけいれん性の腹痛や嘔吐などがみられ、哺乳に問題が生じることもあります。
妊娠初期の葉酸の不足は、先天性異常のリスクが高くなり、特に「神経管閉鎖障害」の発生リスクが高まるといわれています。神経管とは脳や脊髄などの中枢神経系のもとになる細胞で、これらが細胞分裂することで胎児の様々な神経細胞がつくられます。
神経管の下部で閉鎖障害が起きた場合「二分脊椎」になり、下肢の運動障害や排泄機能障害が起こることがあります。神経管の上部で閉鎖障害が起きた場合、脳の形成不全、「無脳症」になり、流産や死産の可能性が高くなります。
葉酸が不足する事で起こるリスクとして、ダウン症児の確率が高まるといわれています。ダウン症とは21番目の染色体が1本多く存在し、計3本のトリソミーとなる染色体異常から起こる先天性疾患です。
葉酸とダウン症の直接的な因果関係は認められていませんが、神経管閉鎖障害とダウン症の発症は直接関係しているという実験結果もあり、神経管閉鎖障害のリスクを下げる葉酸はダウン症発症のリスクを下げる可能性があると考えられています。
お腹の中で胎児の細胞分裂が行われる時、葉酸が不足すると発育不全を引き起こすリスクが高まります。
特に妊娠3ヶ月までは器官形成期といわれ、神経管以外にも重要な臓器が作られる大切な期間です。それ以降の妊娠期でも葉酸は胎児の成長を促し、授乳期中も赤ちゃんの大事な栄養素となるので、積極的に摂取しましょう。
葉酸を摂取することは赤ちゃんのためだけでなく、妊婦さんの健康にも関わってきます。
妊娠すると胎児にも葉酸が必要となるため、妊娠前と同じ量の葉酸を摂取していると葉酸が不足してしまう可能性があります。お母さんと赤ちゃんの健康のためにも、妊娠前から意識して葉酸を摂取しましょう。
葉酸が不足することで、動脈硬化を引き起こしやすくなるリスクがあります。葉酸の働きのひとつに、動脈硬化の危険因子であるアミノ酸を、血液中のコレステロール値を下げる働きのあるメチオニンというアミノ酸に変換する過程で、葉酸が必要となることが分かっています。
また、葉酸を摂取し動脈硬化のリスクを下げることで、妊娠高血圧のリスクを下げることにもつながります。
葉酸が不足することで、ホルモンバランスが大きく変化することがあります。妊娠中は自由に動けなかったり、出産への不安などで精神的にも不安定になりやすい時期です。妊娠によって、ホルモンバランスが大きく変化していることも要因のひとつでしょう。
葉酸を摂取することで「幸せホルモン」とも呼ばれているセロトニンの分泌量が増えるため、ストレス軽減や精神的安定につながると期待されています。
葉酸が不足することで胎児の成長が上手くいかず、流産や死産になってしまう可能性が高くなります。
流産の原因は、遺伝性疾患や先天性異常によるものが多いとされています。妊娠初期の葉酸の摂取は胎児の成長に大きく関わり、神経管閉鎖障害など先天性異常のリスク低下につながると言われます。葉酸の摂取は、流産や死産のリスクを下げることが期待されます。
葉酸はビタミンB12とともに、赤血球をつくる働きがあります。妊娠中は胎児が成長するにあたって、血液中の栄養素が使われます。そのため、葉酸が不足して貧血になりやすいことがあります。
貧血は妊婦さんにふらつきや動悸の症状が出るだけでなく、お腹の赤ちゃんにも貧血が移行し低出生体重児になるリスクも上がります。そのため、貧血を予防するためにも葉酸を積極的に摂取をしていく必要があります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、18歳以上の成人における葉酸の摂取推奨量は1日あたり240μgとされており、妊娠を計画している又は妊娠の可能性がある女性や妊娠初期の妊婦は、通常の食品以外のサプリメントなどで付加的に1日あたり400μgを摂取することが推奨されています。
また、妊娠中は成人の推奨摂取量に240μg加えた1日あたり480μgの葉酸を、授乳婦は100μg加えた1日あたり340μgの葉酸を摂取することが推奨されています。
葉酸は、ホウレンソウやブロッコリーなどの緑黄色野菜や、その他にもレバーや豆類に多く含まれています。1日の推奨量を摂取するには、生のホウレンソウだと約1束分の量にあたります。
葉酸は水溶性のビタミンなので、熱に弱く調理によって栄養が損失してしまいます。炒めたり茹でたりするときは短時間で調理したり、ゆで汁ごと摂取するなど工夫をするとよいでしょう。
ただ、レバーは葉酸だけでなく、過剰に摂取すると奇形発生リスクが高まるとされているビタミンAも多く含まるので、頻繁に食べないよう注意が必要です。
食品から葉酸を摂取しようとしても、調理によって栄養が失われるなどその効果は不安定です。また、食品中の葉酸の体内での利用効率は約50%といわれています。
対して、サプリメントなどの栄養補助食品に含まれる葉酸は体内での利用効率は約85%と安定しています。そのため、食事からだけでなく、比較的安定した摂取が可能なサプリメントなどの栄養補助食品からの摂取が推奨されています。
手軽に葉酸を摂取できるサプリメントですが、その吸収率は食品と比べて高く、上限値以上の量を摂らないよう注意が必要です。食事摂取基準では栄養補助食品等、通常の食品以外から摂取される葉酸の1日の摂取上限量を1000μgまでと定めています。
葉酸の過剰摂取は、発熱・蕁麻疹・紅斑・かゆみ・呼吸障害などの葉酸過敏症と呼ばれる健康障害を起こす可能性があります。また、ビタミンB12欠乏症の診断が困難になる可能性があります。
妊婦さんと赤ちゃんの健康のために、葉酸はしっかりと摂取しておきたい重要な栄養素です。妊娠初期の胎児の神経管形成に大きく関わるので、妊娠を考え始めたら、適量を摂取しはじめることをおすすめします。
必要とされている葉酸摂取量は少なくありません。食事からだけでなくサプリメントなども上手く活用するとよいでしょう。また、葉酸だけでなく、鉄分やカルシウム、その他のビタミンもバランスよく摂取することが大切です。